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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)131号 判決 1969年10月14日

控訴人

出口輝美

代理人

白阪武

復代理人

葛城健二

被控訴人

山本勝一

代理人

仲森久司

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和四四年二月四日にした強制執行停止決定を取り消す。

前項にかぎり仮に執行することができる。

事実<省略>

理由

控訴人は、まず、本件建物および共同抵当に係る他の一棟の建物に対する神戸地方裁判所尼崎支部昭和三五年(ケ)第七九号不動産競売事件においては、右の他の一棟の建物の売得金をもつて競売の基本債権を全部弁済したのであるから、裁判所は本件建物の競売手続を取り消すべきであつたにかかわらずこれを放置し、後になつて右事件記録に昭和三八年(ヌ)第四号不動産強制競売事件を添付したのは違法である、と主張する。しかしながら、競売手続自体に存した違法は、手続中に許される他の不服申立方法によつてのみ主張すべきであり、引渡命令の執行に対する第三者異議の原因とすることはできない。

このように手続的には競売手続の違法を主張することができないのであるが、実体法上は、控訴人の右主張に従えば昭和三五年(ケ)第七九号事件の基本たる抵当権そのものが消滅し、したがつて本来実行できないはずの抵当権にもとづいて被控訴人が競落したことになる。しかしながら、任意競売事件が先行しその記録に強制競売申立てが添付された本件では、任意競売の抵当権の消滅を理由に競落の効果を争うことは不当である。というのは、もしこれを反対に解するときは、強制競売申立人が自己の権利実現への努力をしているにもかかわらず、たまたま先行する任意競売の抵当権が存在しなかつたという理由で権利実現の機会を失うという著しく不合理な結果招くおそれがあるからである。

右のしだいで、被控訴人は、競落の結果、所有者寺本三郎から本件建物の所有権を取得したことになるわけである。これに対し控訴人は、右記録添付以前に右寺本を仮登記義務者とし代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、ついで代物弁済予約完結権を行使したことを理由に、自己の所有権取得をもつて競落人たる被控訴人に対抗できると主張する。そしてこの主張に加えて、右仮登記は競落に際し抹消されてはいるが、これは裁判所の誤つた嘱託にもとづくもので回復されるべき旨を種々の理由をあげて強調する。しかし、その主張のように仮登記が回復されるべきものとしても、本登記を経由していない現段階では、けつきよく寺本から控訴人への所有権の移転を競落人たる被控訴人に対抗することはできない。

以上のとおりで、控訴人は本件建物の所有権取得を被控訴人に対抗できないから、これを原因とする控訴人の本件第三者異議請求は理由がない。よつて、これを棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第五六〇条、第五四九条、第五四八条に従い、主文のとおり判決する。(村上喜夫 賀集唱 潮久郎)

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